代表挨拶

このたび、一般社団法人量子フォーラムの代表理事を拝命いたしました。はじめに、これまで本フォーラムの活動を力強く支えてこられたすべての会員の皆様、関係各位に心より御礼申し上げます。

量子の科学と技術は、その誕生から100年を経た今、まさに歴史的転換点を迎えています。量子コンピュータ、量子暗号通信、量子センシングなど、各分野における基盤技術は急速な進化を遂げ、ブレークスルーを予感させる成果が次々と報告されています。これらは学術的な進展にとどまらず、社会課題の解決や新たな産業の創出へとつながる可能性を有しています。

こうした技術的飛躍を背景に、近年、各国政府は量子技術を国家戦略の中核に位置づけ、研究開発や人材育成への投資を加速しています。米国では「国家量子イニシアチブ法」に基づき包括的な政策が進められ、中国や欧州諸国も大規模な国家戦略を展開しています。日本においても「量子技術イノベーション戦略」、「量子未来社会ビジョン」、「量子未来産業創出戦略」などが策定され、産学官の連携のもと、社会実装に向けた取り組みがなされてきました。

量子フォーラムは、こうした国内外の動向を的確に捉えつつ、産業界・学術界・行政をつなぐ中立的なプラットフォームとして、技術動向の共有、社会実装の促進、標準化の支援、人材育成、そして社会認知の向上など、多面的な活動を展開してまいりました。今後は、「知と社会実装の橋渡し」を担う存在として、さらなる機能の高度化を目指したいと考えています。

量子技術の社会実装には、研究者のみならず、エンジニア、政策立案者、企業経営者、教育関係者など、さまざまなステークホルダーの有機的連携が不可欠です。基礎から応用までの研究連携に加え、量子リテラシーの普及、制度設計や標準化といった包括的な取り組みが求められています。フォーラムは今後も、分野横断的かつ産学融合的な議論を支える「共通基盤」としての役割を担ってまいります。

現在フォーラムでは、「量子鍵配送」、「量子コンピュータ」、「量子計測・センシング」の3つの技術推進委員会を設け、アカデミアと産業界の知見を融合する場として活発な議論や交流を行っています。また、それらを横断する形での活動も展開しており、たとえば2024年秋には「冷却原子が拓く量子技術の最前線」と題する公開シンポジウムを開催し、複数の領域にまたがる融合的な議論を展開いたしました。こうした視座の多様性こそが、量子技術の全体像と将来像を描くうえで重要であると考えております。

私自身は長年にわたり、アカデミアにおいて量子エレクトロニクスや量子フォトニクスの研究に携わると同時に、産業界や国のプロジェクトとも密に連携してまいりました。量子ドットレーザや光電融合技術の研究開発・実用化を通じて、研究成果が社会にもたらすインパクトの大きさを実感してきました。今後は「研究と社会」、「技術と人材」、「日本と世界」といった多様な懸け橋を意識しながら、フォーラムの在り方を構想したいと思っています。

申すまでもなく、量子フォーラムは会員の皆様とともに歩む組織であり、同時に、皆様一人ひとりが、量子技術の健全な発展に寄与する重要な担い手でもあります。人材育成、社会実装、そして科学技術の進展に向けた主体的な参画を通じて、産業界とアカデミアの架け橋としてのフォーラムの価値は、今後ますます高まるものと確信しております。より魅力ある組織の実現に向けては、会員の皆様の積極的なご参画とご支援が不可欠です。引き続きのご協力をよろしくお願い申し上げます。とりわけ企業の皆様には、特別会員・正会員(法人)として、国家の未来を見据えた観点からのさらなる財政的ご支援もお願いしたく存じます。これは企業の枠を超えた社会への投資であり、フォーラムもその信頼に応えるべく、確かな価値を創出してまいる所存です。

今後は、Q-STAR(量子技術による新産業創出協議会)、QIH(量子技術イノベーション拠点)、さらには日本学術会議を含む関連学会との連携も強化し、国際的視点に立脚した「協調と信頼のネットワーク」の拡充を図りたいと考えています。あわせて、スタートアップを含む多様なプレイヤーの参画促進にも積極的に取り組みながら、本フォーラムの将来ビジョンを皆様と共に描いてまいります。

量子技術は、国境を越えて社会と産業を変革する力を有しています。日本が持つ知と技術を活かし、国際社会への貢献を果たしていくことが、今まさに求められています。誰もがその恩恵を享受できる包摂的な量子社会の実現に向けて、皆様の一層のご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

一般社団法人量子フォーラム
代表理事
荒川 泰彦