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当たり前に量子暗号を使える社会にするために技術的にどうあるべきかを考え国際標準化の議論をします

当たり前に量子暗号を使える社会にするために技術的にどうあるべきかを考え国際標準化の議論をします

社会実装が刻々と進んでいる量子ICT。そのなかでも最も社会実装が早いとされる量子暗号「QKD(量子鍵配送、Quantum Key Distribution)」。NECの遠山裕之さんは量子暗号の国際標準規格整備の最前線に立つ。量子暗号は2021年度中には規格が決まるとされ、規格化されれば、さまざまな事業分野での社会実装が一気に進む。

日本電気株式会社(NEC) ナショナルセキュリティ・ソリューション事業部の遠山さんは、各国の専門家とその詰めの作業に取り組んでいる。コロナの影響で現在出張はなくなったが、自宅からオンライン会議で各国代表者の思惑を探り、未来を見据えた国際プロトコル策定のために資料をまとめ、ドラフトを策定しては議論を交わしている。深夜長時間に及ぶタフな国際会議を繰り返している。

休日は学生時代から続けている音楽活動と社会人になってからはじめたロードバイクに没頭。「オンとオフを意識して切り替える」ことが、次世代の国際規格づくりというタフな仕事を支えている。

ネットショッピングのセキュリティが気になり大学で好きな数学を生かせる現代暗号を研究

小学生の頃からパソコン少年だった遠山さん。インターネットも身近に使える環境にあり、小中高と算数・数学が得意だったことから、数学を生かそうと東京工業大学(東工大)へ。

父の趣味の影響もあって、幼い頃からパソコンやインターネットに触れられる環境にありました。情報系についてはずっと関心があり、パソコンを自作したこともあります。

大学は東工大に進学しました。学部時代には現代暗号という計算を使った暗号研究をしていました。きっかけは、インターネットで買い物をする時に、どのような仕組みで個人情報が守られるのかが気になり出したんです。それでセキュリティに関心を持ち、ずっと数学が好きだったこともあって、暗号に興味を持つようになりました。

暗号の面白さは、その非対称性にあります。暗号化によって自分はファイルの中身が見ることができるけど、ほかの人は見られない。どの情報を秘匿し、どの情報を公開するかという、プライバシーに対する暗号独特の考え方も面白かった。いろいろな状況を設定して暗号を組み立てるゲームチックなところも楽しかったですね。

暗号に魅了された遠山さんは、さらに大学院で研究を続けた。就活では磨いた暗号技術という“武器”を生かせる企業としてNECの門を叩く。2016年に防衛分野のエンジニアとして入社したが、その後量子暗号のプロジェクトメンバーとなり、国際標準化と事業化に向けた整備を国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)と進めている。

大学・大学院時代は量子暗号には関わっていませんでした。量子暗号は暗号分野のなかでは有名でしたが、まだ未来の技術というイメージでしたので。こういう世界もあるんだという程度で、まさか自分が関わるとは思いませんでした。

実は私、NECが量子暗号の研究をしているとは知らずに入社したんですよ(笑)。最初は研究者というよりは、防衛分野のエンジニアとして採用されました。お客様である防衛省をはじめ中央省庁の方々のコンセプトや要望を聞いて仕様を考え、装置をつくって納品するまでが仕事です。

もちろん先輩や上司の協力を得て、進めるわけですが、若手なので足りないところをよくご指導いただいています。上司の方々は知識や経験が大変豊富です。しかも、我々若手が提案することも、しっかり受け入れてくれます。そういった尊敬できる先輩方の下で働くことができるのは、恵まれていると思っています。

量子暗号に関わるようになったのは、防衛系で、より秘匿性の高い量子暗号化のニーズがあるのでは、ということから声がかかったのがきっかけです。暗号の最先端の分野であり、私自身関わってみたいと思っていたので声をかけてもらった時はうれしかったですね。タイミングがよかったと思います。

ただ量子暗号はそれまでやってきた暗号技術が使える部分とそうでない部分があり、結構難しい。私が研究してきた暗号理論は、数学がベースですが、量子暗号は物理現象を使っているので、新しく学ばなければならないことも多いですね。

NECに入社した当初はエンジニアで、自分たちがつくった装置を納入すると、使っていただいたお客様から「ありがとう」と言われることもあり、うれしかったですね。

量子暗号に関わってからは研究者というスタンスで仕事をしているので、お客様と直接接する機会が少なくなりました。今後、社会実装が進んでいけば、お客様から直接「ありがとう」という言葉をいただけるようになると思いますので、大変やりがいがある分野だと思います。

Talk-1

全員一致が原則遠隔で安定的にやりとりするための検証を続ける

―量子暗号の国際標準化、事業化に取り組んでいるということですが、どういったことをされていますか。

国の研究機関、NICTと共同で技術的にどうあるべきかという部分をベースに国際標準化づくりに関わっています。

だいたい数ヵ月に1度の割合で、ITU-T(国際電気通信連合)の国際会議が行われていて、そこで標準化についてのさまざまな議論がなされます。量子暗号の議論はそのなかの一部として行われます。

参加者は通常10~20人ですが、多いと40〜50人になることもあります。

私の仕事は前線での議論ではなく、議論に乗せるドラフト原稿の作成やレビューなどが主な仕事です。国際会議での発言は主にNICTの研究者が中心となりますが、量子暗号のベンダーとしてのNECの立場から発言することもあります。

―国際会議はオンラインで開催されているのですか。

以前はスイスのジュネーブまで出張していましたが、いまはオンラインで会議を行っています。現地に飛ばなくても仕事ができるのでうれしいのですが、会議自体はヨーロッパ時間に合わせるので日本では深夜になることもしばしばあります。長いと夕方5時から夜中の2時までというケースもあります。

―会議は英語でのやりとりになるのですか。

はい、英語です。私は大学時代にドイツ人留学生が研究室にいたので、そのチューター(助言や補佐)を英語で行っていた経験があるのが役立っていましたが、オンライン会議だと少し困っています。リアルだと身振り手振りでなんとかなっていた部分もありましたので(笑)。

―かなり激しい議論になるかと思いますが、気をつけていることはありますか。

欧米の方はネイティブなので、細かな表現へのこだわりがあります。それぞれ各国の代表でもあるので、議論はかなり白熱します。でも皆さんサイエンティストであり、エンジニアであるので、未来を考えて技術的にどうあるべきかをベースに意見を戦わせます。ITU-Tでは全員一致が原則なので、技術的にどこまで相手を納得させられるかということが大事になってくると感じています。

―いまチーム体制は何名くらいで、どのようなコミュニケーションを取りながら仕事をしているのですか?

いまは10名ほどのチームです。私が一番若手で、同世代の人がもう1人います。年長者でも50代後半です。出社時は、夜9時過ぎまで仕事をすることもあります。

在宅時にはTeamsを使ってコミュニケーションしながら仕事を進めています。常にオンという状態ではなく、必要に応じて皆のやりとりに参加するという感じです。

在宅勤務で移動の必要がなくなった分、会議などの予定が増えています。コロナでデジタル化が進み、社会全体のスピードが上がっている気がします。

―最先端の分野。かなり勉強することも多いと思います。

物理については学生時代に専門的に学んでは来なかったので、できるだけ自分で調べて勉強しています。普段からアンテナを張り、関係資料を集めていますが、またニュースで関連する事柄を入念にチェックしています。

またNECには専門の図書館があるので、そこでよく本を借りていますし、周りにさまざまな分野の専門家の方がいらっしゃるので、わからないことがあったらすぐ聞きますね。お互いそれぞれ専門のバックグラウンドが異なりますので、積極的にナレッジを共有する文化も醸成しています。

―今後は社会実装のフェーズに入ります。さらに社会に量子暗号技術を広げていくにはどういった方々に関わってもらいたいと思っていますか。

社会実装の実現となると、さまざまな分野の知識が必要になります。例えば、金融分野に実装しようとしたら、金融のメカニズムを知らなければなりません。医療なら、医療の仕組みやどのような医療情報があるかを知る必要がある。量子暗号と一見全く関係ないような知識が必要になってきます。どんなバックグラウンドの人でも、自分の専門知識を生かして量子暗号で活躍できると思っています。

その点からも量子ICTフォーラムは、量子に関する技術を発信していく場として活用させていただきたいと考えています。いま、社会実装を担うNECと東芝さんが一緒にフォーラムに参加していますが、ライバルなので個社の戦略など、公にできないこともある。でもまずはオールジャパンとして進めるために、相互に協力ができる場にもなっています。

個人的には、量子暗号を社会実装という形で、社会に溶け込ませていく。それを果たすことが夢です。目に見えるものではないけれども、皆が意識することなく、あたりまえのように社会に役立っているようなものにしたいと思っています。

―国際標準化の目処はどの程度までついているのですか。量子暗号が社会実装されると私たちの暮らしはどう変わっていくのでしょうか。やはり国防関係から社会実装が進んでいくのでしょうか。

2021から22年にはISO規格が定まってくる予定です。当社の顧客には中央省庁やインフラ関係のお客様も多数いらっしゃいます。まずは期待されている安全保障などの公共分野からになるかもしれませんが、民間にも開かれていくことになると思います。

中央省庁や国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)など政府系機関をお客様に持っていることが強みになるかもしれません。

―遠山さんが考える量子暗号の課題には、どういったものがありますか。

量子暗号に対する世の中の認知度が一番の課題です。お客様にご提案する際に、「そもそも量子暗号とはどういうものか」という質問をよく受けます。各分野で量子暗号技術の使い方のイメージがまだ具体化されていないのです。私自身もNECに入社するまでよく知らなかったように、お客様の認識ではまだまだ未来の話だと思われている。そのギャップをいかに埋めていくかが大きな課題だと思っています。

Talk-2

自転車での移動は途中のプロセスがわかるのがいい

―ところで研究者としての日常はどんなサイクルですか?

コロナ前とコロナ後で変わりました。基本は在宅で、昨年の4〜6月は一切出社なしでしたが、現在は、出勤日以外にも気分転換をしたい時も含め、週2,3日は出社するようにしています。

だいたい7時に起きて、朝食を食べて、支度をして8時過ぎに家を出ます。趣味が自転車なので会社まで7kmほどの自転車通勤です。疲れすぎず、短すぎずちょうどいい感じです。

―自転車は学生時代からの趣味なのですか?

いえ、社会人になってからです。父の趣味がロードバイクでしたので、2台あったうちの1台を譲り受けてからですね。

自転車は自分の足で遠くに行けるところが楽しい。最近では会社から八景島まで途中で友だちと合流して往復110kmを走りました。電車のほうが遠くに行けますが、電車だと最初と最後しかわからない。自転車はプロセスがよくわかります。自分で計画を立ててそのとおり走ることができるのが楽しいですね。最近はいろいろな発見があって地図を見るのが楽しくなってきています。

八景島に行ったときに途中の横浜で撮った写真です。

―研究と同様にプロセス重視の視点で趣味も楽しまれているのですね。

ほかに、休日にはバンド活動をしています。最近はコロナで活動ができていませんが……。

高校時代にギター部でクラシックギターをやっていました。大学時代も続けていましたが、社会人になって大学時代の仲間が「バンドをやろう」って言い出して、それでいまジャズバンドをやっています。実は皆、ギター部出身なのに、誰もギターをやらない(笑)。私はベースを担当しています。最近はじめてアコギが入って6人編成になりました(笑)

―演奏はオリジナル曲ですか?

アニソン(アニメソング)やゲームソングが好きなので、そういう歌をジャズアレンジしています。バンドメンバーが共通して好きなゲームが、『ペルソナ』で、ここに使われる曲をよくアレンジしています。

1人、アレンジの天才がいて、その人に教わりながらみんなでああでもないこうでもないと編曲します。いまライブ活動はあまりできませんが、スタジオを借りて換気に気をつけながら、定期的に練習しています。

―オンもオフも充実しているようですね。

オンでもオフでも全力を出したいと思っているほうなので、意識して分けるようにしていますね。