量子鍵配送技術推進委員会若手インタビュー 量子情報デバイスの社会実装一番候補、QKD。関わるなら、今しかないと思った
株式会社東芝 研究開発センター
コンピュータ&ネットワークシステムラボラトリー 鯨岡 真美子
量子ICTフォーラムのメンバーで、QKD=Quantum Key Distribution(量子鍵配送)の研究を続ける、東芝の研究開発センターの研究主務 鯨岡真美子さん。
所属する東芝は2003年より量子暗号の研究を進め、2020年10月に量子暗号通信のシステムのプラットフォームの提供とシステム・インテグレーション事業の開始を発表、QKDの社会実装の1ページを人類史に刻んだ。
量子力学を学んでいた大学学部時代に出会ったサイモン・シンの『暗号解読』に衝撃受け、量子情報研究者の道を選んだ鯨岡さんは、まさにその歴史的瞬間を研究の最前線で見届けたのだった。
現在、量子中継を含めた量子暗号の長距離配送の研究を海外のチームと協同で進めるほか、国の研究プロジェクトの分科会メンバーとしても活躍している。
私生活では就学前と小学1年の二人のお子さんを育てる母親の顔を持つ。料理好きで同じ東芝の研究者のご主人と二人三脚で育児と家事に向き合う研究者一家の実際に迫った。
大学3年で出会った
サイモン・シンの『暗号解読』に衝撃
QKDの社会実装を予見
幼い頃、近所の子ども科学館が大好きだったと語る鯨岡さん。とくにプラネタリウムに熱中し、ごく自然に理系の道に進んでいったという。本好きで、なかでもSFを好んで読んでいたこともあり、将来は宇宙科学を学ぼうと考えていたが、大学で光の面白さに取り憑かれ、量子力学を学んだ。
出身が神奈川県で、近くに「横浜こども科学館」という施設があり、幼い頃は科学好きの母親に連れられてよくそこに出かけていました。その科学館にはプラネタリウムがあって、行くとワクワクしながら見ていましたね。本も好きで、よく図書館で本を借りては読んでいました。ジャンルはとくに問わず何でも読んでいましたが、とくにSFがお気に入りでした。
そんな環境もあり、宇宙科学への興味が深まっていき、大学は物理学科に進みました。ただ大学に入ってからは光も面白いなと思い、学部時代に量子力学を学びました。
量子力学は面白かったのですが、何の役に立つのかなとも思っていました。ところが、学部3年の時にサイモン・レーナ・シンの『暗号解読』という本に出会ってから、量子暗号はすごい、量子力学が世の中を変えるのではと思うようになりました。それが量子情報、いまの量子ICTとの出会いですね。
一方、研究者としての道を開いてくれたのは、学部4年時のNICT=National Institute of Information and Communications Technology(国立研究開発法人 情報通信研究機構)との出会いでした。
大学研究室のポスドクの先輩から「人手が足りないので手伝いに来られる学生はいないか」と誘われたのです。面白そうだなと受けたのですが、結局そのまま修士、博士課程と進学し、その間ずっとNICTで研究していました。途中その先輩が抜けて、下に後輩がついてしまい、いつの間にか自分がリーダー的な役割を担うようになっていました。
修士の時に博士課程に進むか就職するかで多少悩みましたが、博士課程を選択しました。やはり研究が面白いと思ったからです。その後もアカデミックに進むか企業に進むかでまた悩みましたが、自分は研究を研究で終わらせずに世の中に送り出す、事業に近い研究者になりたいと思い、東芝に就職しました。
一介の学生を
1人の研究者として扱ってくれたNICT
NICTで研究に取り組んだことは、その後の鯨岡さんの研究者人生を決定づけた。研究者としての視点や思考法、人脈などが自ずと広がっていった。専門やバックグラウンドの違う多士済々の賢者のアドバイスを受け、鯨岡さんはいつしか国際的な学会賞を受賞するまでになっていた。
NICTの経験はかなり大きかったと思います。大学だけでは得られなかった人脈が、今も仕事にかなり役立っています。
NICTで研究していた時に何度か行き詰まったことがあり、違う部署の人と話したり、ディスカッションしたりしたことが研究の突破口になったことが何度もありました。
やはり自分1人の世界は狭いと感じています。研究者に限らず、とにかくさまざまな分野の人の話を聞くことは重要だと思いましたね。量子ICTフォーラムもそうですが、異分野の研究者が集まる組織では、いろいろな人に出会うことで、研究者は着想を広げることができますし、たくましくなっていきます。
今であれば、オンラインでつながることができますから、世界を広げる努力は以前にも増して大事だと思いますね。
NICTは私のキャリアの方向性だけでなく、職業人としての研究者というものを学ばせてもらいました。とくに主管研究員の佐々木雅英さんとの出会いはとても大きかったです。一介の学生の私を一端の研究者として扱ってくれて、鍛えてくださいました。
プレゼンは研究者の第一言語
色1つにもこだわるのがプロの研究者
「もの凄い熱量の研究者」。鯨岡さんは当時の佐々木さんとの出会いの頃をこう振り返る。佐々木さんは、プレゼン資料に何度もダメ出しをするなど、鯨岡さんに時に厳しく研究者の基礎を教え込んだ。その一方で佐々木さんは、鯨岡さんを始め、研究者の前で量子ICTの未来を熱く語っていた。その熱量は内外の多くの研究者を巻き込んでいった。その「巻き込み力」にも鯨岡さんは触発された。
佐々木さんは当時からすごい熱量を持っていました。私は間近から「量子情報を切り拓いていくぞ」という、その熱を浴び続けました。研究者としてのイロハはもちろん、研究結果をプレゼンでどう見せるかといった、職業人としての研究者の姿勢やノウハウをしっかり学ばせてもらいました。
当たり前ですが、研究者にとってプレゼンはとても重要です。いかに研究が優れていても、伝わらなかったら意味がないので。私はプレゼンとは「研究者の第一言語」だと思っています。私の大学には英語のプレゼン演習という授業があり、それがとても役に立っています。でもそれだけでなく、実際に作ったプレゼン資料を佐々木さんに見ていただき、学会の度に駄目出しされたことが大きな財産になっています。「こんなのでは伝わらない」と結構直されました。
分かりやすいところでは、「色」。佐々木さんは「こんな色を使っては駄目」とはっきり言ってくれました。
「大事なところはぶち抜け」とも言われました。ポスターもA0サイズの大きいものを作るようにしていましたが、すべての要素のバランスを気にすると何となくちまちましてしまいます。でもぶち抜いてそこから吹き出すようなレイアウトにしたら、確かに「どーん」とインパクトが出て、とても勉強になりました。
博士課程の時にも研究成果がうまく説明できず、どんなモデルで考えたらいいのかわからなかった時、佐々木さんにアドバイスをもらいました。違う部署の方を紹介していただき、その方のモデルを適用して説明したところ、国際学会で賞をいただきました。
この経験はかなり自信になりました。行き詰まった時に、違う方面の話を聞ける環境というのは本当にありがたいです。
プレゼンがうまい、つまり研究成果をうまく伝えるというのは研究を続けるうえで大切なスキルなんです。うまくアピールができれば、より大きな予算を獲得できるからです。予算を獲得することは、研究者でもある程度上級職になってくると大事な仕事になります。だからそのためのプレゼン技術はとても役に立ちます。
同様に研究者は報告書も書く機会が多いです。そこでもすごさを伝えることは重要になってきます。短時間で伝わる資料を作れることは、研究者にとって重要なスキルだと思いますし、研究者に限ったことではないので、ぜひ学生のうちに身に付けておくといいと思いますね。
それから佐々木さんは、人を巻き込む力がありました。組織の内外はもちろん、世界レベルでいろいろな人を巻き込んでいました。内外のトップレベルの大学教授から気鋭の若手、学生などが研究室によく訪れてお茶を飲みながら議論していました。私もよく参加させてもらいました。
やはり新しい分野を広げて発展させていくためには、いろいろな分野の人を巻き込んでいくことが重要だと思います。
育児休暇後、
量子情報デバイスに関わるなら
今しかないと量子暗号チームに異動を志願
1人の研究者として鍛えられた鯨岡さんは、博士課程修了後の2010年、当時量子関連の研究に取り組んでいた複数の企業のなかで、東芝を選択、入社を果たした。
配属は東芝の研究開発センターの量子コンピュータのチームでした。私がそれまでやっていた研究が活かせるところを考えた時、東芝が量子コンピュータ研究の採用をしていたことが入社の大きな理由でした。その後育児休暇を挟んで、2016 年に現在の量子暗号のチームに移り、以来量子暗号の研究に取り組んでいます。
2016年当時は、ちょうど量子暗号が事業化に近づいてきたというところでした。ずっと量子コンピュータや量子デバイスのかなり基礎的なところをやっていて、それはそれで面白かったのですが、量子情報デバイスを世の中に出すというところに関わってみたいと思ったんです。
量子情報分野では最初に世の中に出る量子デバイスはQKDだと言われていたので、QKDに自分で関わるなら、今しかないと思い、希望して量子暗号チームに異動させてもらいました。
暗号化した膨大なゲノム情報を
遠隔で安定的にやり取りするための
検証を続ける
―QKDはこれまでの暗号解読のいたちごっこに終止符を打つ技術と言われています。改めてQKDとはどういうものなのか、教えてください。
今までの暗号は、計算の難しさを根拠に破られない技術を生み出していくことが主流でした。そのためコンピュータの性能が上がってくればいずれ破られてしまいます。現在使われている暗号は、2030年ぐらいに現れるとされる量子コンピュータによって簡単に破られると言われています。いたちごっこではなく、根本的に破ることができない、量子暗号(Quantum cryptography)が候補になってきたのです。QKDは量子力学を使った2拠点間の暗号鍵の配送技術を指し、QKDによって交換した暗号鍵を使ってデータを暗号化してやりとりすることを量子暗号と呼びます。
一般的な暗号化された文章の情報伝達は、まず乱数列を用意して、送信者が秘密にしたいデータをその乱数列データを利用することで読めないようにします(暗号化)。その暗号化したデータを受信者に送ると受信者は、同じ乱数列を使って、元の文章を復号するわけです。
暗号の実用ではその乱数列をどうやって離れた2拠点間で共有するのかというところが一番難しいです。いろいろな方式があるのですが、QKDは、乱数を光子の量子状態に載せて相手方に送る方式です。QKDのポイントは、乱数を送った時に、途中で盗聴されても必ず検知できる点です。もしそのデータに盗聴の痕跡がある場合は、その鍵を使わずに、盗聴された痕跡のない別の鍵を使うようにすることで安全な乱数が受信者と共有できるという仕組みになっているんです。
なぜ検知できるかというと、QKDでは光子一粒一粒に「0」「1」情報を載せて送るのですが、光子は2つに分割したり、コピーしたりすることができないという性質があるからです。光子には観測されることで状態を変える「観測不可能性」があるので、途中で盗聴が入ったことが必ず分かってしまいます。これが量子暗号技術の特性です。
―どういった形で社会への応用ができるのでしょうか。
乱数列のペアが欲しいところであれば、どこにでも応用が利きます。まず使われるのは、1対1のやり取りで、未来永劫、絶対に読み取られることはないので、特に長期の安全性、長期間秘密にしたいデータをやりとりするのに適していると思います。
医療におけるゲノムデータなどがそうですね。例えば私のゲノム情報が漏れたことによって、私の子どもや孫など遺伝的に似通っている人への影響が想定されます。仮に私ががんになりやすいという情報があった場合、将来、孫の就職活動に影響することもあり得ます。こうしたセンシティブなデータに関しては、従来のような計算の難しさによる暗号化より、量子暗号のように原理に基づいた方式で暗号化したほうがより安全だと思います。
―そのなかで鯨岡さんは現在、どんな研究をしているのですか。
2015年から東北大学の協力を得て、仙台市内の東芝のライフサイエンス解析センターと、東北大学の星陵キャンパスにあるToMMo(東北メディカル・メガバンク機構)との間、7kmを光ファイバーでつないで量子暗号装置を動かして、日々検証をしています。
電柱と電柱の間では架空光ファイバーを使っているので、風や外気の影響を受ける可能性があり、距離が離れていても安定して動かせるように検証をしているのです。
この検証では量子暗号通信をするだけではなくて、ゲノムデータを伝送しています。実際の患者さんのデータを配送するという実用化レベルの実証ですので、世界でもまれな成果になっていると思います。
微弱な光をいかに精度良く検出し、
高速に暗号鍵を生成するか
東芝の技術は桁違い
―事業化にあたっては、かなり大容量のさまざまな分野のデータを伝送する実証が必要だということですか。
そうです。私はそのフィールドの運用状況を、ハードウエアの研究をやっているケンブリッジ研究所にフィードバックして、こういうふうにしたらいいのではないかという議論をイギリスのケンブリッジ研究所側とやりとりしています。
ケンブリッジ研究所がハードウエアを中心に、日本側はソフトウエアやネットワーク中心という担当で研究を行っています。
―東芝さんの技術はどこが優れているとお考えですか。
QKDは単一光子をやりとりする技術なので、微弱な光をいかに精度良く検出するかというところがポイントになります。東芝はその独自の技術を持っています。もう1つは光検出後の処理があげられます。光をただ単に送るだけでは駄目で、その後、本当に正しく乱数を共有するためには幾つかの後処理が必要となります。東芝は後処理の高速性をかなり極めているのです。最終的にはチームで行うわけですが、ケンブリッジ研究所の微弱な光の検出技術と、日本側の後処理高速化技術を組み合わせて、達成できたところが我々の売りになると考えています。
距離を克服するための
量子中継技術が1つの鍵を握る
―量子暗号については日本が先行しているという話を各方面から伺いますが、量子暗号におけるライバルはどこになってくるのでしょうか。
今、量子暗号はスイスの会社が実用化しています。中国でもかなり大規模なフィールド実証がなされています。これらに対して日本の会社は鍵の配信速度、乱数列を生成する速度が何桁も速いです。さまざまな国家プロジェクトで実証を重ねて、他の弱みも解決していけば、デファクトスタンダードも取れると思います。
ここ数年は社内外から大変期待されていると感じています。
―原理的には暗号解読が不可能だから、社会のあらゆるところで使えると……。
私たちの成果物としては、基本的には共有した乱数列ですから、ありとあらゆるところに使えます。暗号化が必要なところには全て使えることになります。
―QKDの国内での実用化は、光ファイバーを基本にしているということですか。
大陸間のような長距離は、光ファイバーでは難しいでしょうね。そういう環境であれば衛星が必要だと思います。ただ、日本国内の比較的短い距離であれば地上間でいいと思います。また長距離での1対1で繋ぐことは無理かもしれませんが、いったん途中で鍵を共有して、その鍵をリレーする方法もあるので、使い分けだと思っています。
―現状での大きな課題にはどんなものがありますか。
やはり距離ですね。1光子を通信プロセスで増幅させずに送らなければならないので、どうしても長距離は難しくなってしまいます。そこで従来の方法とは違うスキームや、量子中継といったことも、今度総務省の国家プロジェクトでも取り組む予定です。
子どもを送り迎えしながら自宅勤務
イギリスとテレコンで会議も
―ご夫婦が研究者で、しかも小さいお子さんを育ててらっしゃいます。ワークライフバランスの取り方はなかなか大変だと思いますが、今の生活サイクルはどのような感じなのでしょうか。
朝6時少し前に起きて、下の子を7時半ぐらいに保育園に連れて行って、上の子を送り出して8時に仕事を始めて、5時半ぐらいに終わってお迎えに行く感じです。平日だと料理や家事を分担して9時にはほとんど終えて、その後みんなで寝るというサイクルです。仕事は、量子暗号装置の具合を見たり、社内の会議に出たり、自分で黙々とデータ解析などをする時間が多いです。夕方早めに帰って、子どもを迎えに行った後に、自宅でイギリスのケンブリッジとオンライン会議といった日もあります。
―海外とのやりとりは、自宅からですか?
オンライン会議なので、どこからでも入れます。コロナ後は、昼間が在宅になっただけで、それほど変わりません。
ただ周りの研究者でもデバイス系など、装置がないとできない方は出社しているようです。
―チームで研究されているかと思いますが、仕事の進捗の確認やシェアはどのように行っていますか?
勤務時間も明確に決まっているわけではないのですが、必要に応じて会議が入る感じです。研究者なので会議やディスカッションはしょっちゅうです。会議は私が提案することもあります。
どういう課題があるかについて皆でシェアして、それに対して解決策を出すための打ち合わせを定期的に開くという感じですね。
また研究のフェーズによって仕事の仕方も変わってきます。例えば仙台に新しい装置を導入した時は、仙台に数日滞在して、現地での導入作業をしていました。安定してくれば、自宅でログを確認できます。
―泊りがけの出張もあるのですね。
1泊2泊の場合は、夫が子どもたちの面倒を見てくれますが、ケンブリッジに1週間滞在した時には、夫の両親に手伝ってもらいました。
―子育てはご主人と分担されているのですか?
上の子の学童のお迎えは夫が行っています。
―細かいことですが、朝は料理も作っているのですか?
最低限だけど作っています。夫の趣味が料理なので、夫のほうが料理は上手です。ビーフシチューがお店よりおいしいんですよ。子どもたちも大好きです。私は手間の掛かる料理は敬遠しますが、夫はそういう手間の掛かる料理ができていく過程が楽しいようです。自分で圧力鍋を買ってきたくらいですから。
我々共働きにとって一番足りてないのが時間です。それを確保するためだったら多少の出費は構わないという考え方です。だからたとえば洗濯機も乾燥機付きが必須です。
夫が研究者なので、価値観が似ていますね。私が「こんな掃除機を買いたい」と言うと、「幾ら?」と聞いてくるので、「これによって得られる効果はこうで」と説明すると、「よし、いこう」という感じになります。
―「なんでこんなものを買ったの?」という話になりませんか?
ならないですね。買う前に話し合うので。
―うらやましいです。
我が家は本当にイーブンだと思って、一緒にやっています。だいたい同じぐらいの時間に仕事を終わって帰るので、「じゃあ夕飯作る」、「OK。じゃあ、その間に僕は何をやる」、「終わった」、「じゃあ、次のタスクで残っているのは何だ」という感じでやっています。得意、不得意はありますが、互いにできないことはないので、その中で今私はこれ、あなたはこれ、という感じで進めていますね。
失敗で落ち込んでいる時間があるなら
前に進むことに全部使う
―休日はご家族でどのように過ごされているのですか?
とくに何かしているというわけではないですが、昔から山登りはしていました。山登りと言っても日帰りのハイキングです。夫と一緒に丹沢や多摩方面に行っていました。ただ子どもが生まれてからは、連れては行っていないですね。また行きたいとは思っています。仕事の気分転換にもなりますし。
山登りの良さって、頑張ればゴールにたどり着けるところだと思っています。普段やっている研究は、うまくいくことばかりだけではありません。世界初を実現しようとしたら、99%は失敗します。でも山登りはルートを間違えなければ頂上にたどり着きます。そこでしか見られない景色、そこでしか吸えない空気などが味わえることが、山登りの達成感、醍醐味ですね。
―研究の99%は失敗だとおっしゃいましたが、失敗して落ち込んだ時に、リカバリーする方法は何かありますか?
勤務時間も限られているので、後悔している時間も、落ち込んでいる時間ももったいないと思っています。前に進むことに全部の時間を使いたいので、落ち込んだら1杯飲んで忘れるようにしています(笑)。夫に愚痴ったりするかもしれないので、夫は大変でしょうけど(笑)。